「欧州どまんなか」 January 15, 2002
ニュージーランドから来た少年

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「ニュージーランドでは誰もが君に話しかけるよ。来たらわかると思うが、、、」。自動車に乗り込んだポール君が息子に、そういった。近くのスキー場で半日スキーを楽しんだ二人を、私が自動車で迎えに行ったときのことである。

ポール君は、ニュージーランドから来た16歳の少年である。彼は今我が家に滞在し、息子といっしょに毎日学校へ通っている。二人は、ドイツの子供たちが閉鎖的で、ポール君がとけこみにくいことを話題にしていたのである。同級生は英語で話すのが恥ずかしいとか、息子は弁解につとめる。後部座席から聞こえるそんな会話を小耳にはさんだ私は「ドイツのコドモはイナカモンなんや」と日本語でいった。いいことを聞いたとばかり、息子がおぼつかない英語で説明している。

米国へ留学することが友だちのあいだで流行っているらしく、ある時、息子も行ってみたいという。一年の滞在で何十万円もかかる。教育費がゼロの国に育った女房は断固反対。私が仲裁に入り、交換相手を見つけ、滞在費や学費がかからず飛行機代だけで済む方式にすることで妥協が成立。

息子は南ア連邦・ケープタウンで働く従兄弟に斡旋を依頼。見つかった相手はドイツ文学専攻の女子学生で、息子のほうが敬遠。次は州の国際交流機関の斡旋でニュージーランドに決め、はじめは10ヶ月滞在希望で相手をさがす。見つからず二ヶ月のドイツ滞在希望者ポール君に決定。彼が帰国した後、今度は息子がウェリントンの彼の家に二ヶ月間居候する。

「ポール君が来たら、下着で家の中をうろうろしてはいけない」と、留学説明会から戻った息子に私は注意された。私はステテコでうろうろしないとくつろげない世代で、もう15年以上も前にボロボロになった最後のステテコに別れをつげた。でも、気づかないうちに私はそれに近い姿になるのかもしれない。ニュージーランド人は、囚人流刑地・オーストラリアと異なり英国紳士の子孫だから、と息子は私に説明した。

ポール君は4年間ドイツ語を勉強したのに、話すのはあまり上手でない。食事のときの会話もどうしても英語になりがちである。私は毎日英語の新聞を読んでいるのに、自分の会話能力が女房や息子より劣ることに気がつく。

ポール君の学校では、ドイツ語、フランス語などと並んで日本語を勉強することができる。日本語を選択する生徒の数はドイツ語などよりずっと多い。これは、日本がニュージーランド国民に経済大国として身近に感じられるためと思われる。また日本から毎年30人もの生徒が彼の学校に留学する。でも日本人は日本人だけでかたまる。また彼らは極端にたくさんのおこづかいをもたされ、お金の使い方が派手で、地元の生徒の反感をかうようである。「たくさんのおこづかい」というところで、私は、息子の期待と女房の警告の眼差しを感じた。

日本人のこのような評判を聞くことは今までも散々あった。ドイツ国民も国外では自分たちだけでかたまる。人口が多くて裕福である以上、どうしても大挙押し寄せる。この点で日本人と似ている。そう思っても、直接ポール君から、日本人生徒の話を聞くと残念な気がしないでもない。

ポール君の両親は離婚したが、お父さんはドイツ人、お母さんはマオリ人である。彼は浅黒く、その点息子と似ている。二人がいっしょに歩くのを見て、近所の人は私の親戚が日本から来ていると思ったそうである。反対にニュージーランドで、息子はポール君のお母さんの親戚と見られるかもしれない。マオリ人はニュージーランドの先住民族である。ポール君によると、今でも微妙な人種差別が存在しているそうだ。

ニュージーランドは人口が400万人足らずの小国である。ポール君が一度こぼしたが、米国の世界地図にオーストラリアはのっていても、ニュージーランドはカットされることがあるそうだ。昔、欧州の小国・デンマークの女子学生と大学のゼミが同じでよく議論した。当時、風来坊のような私の心に巣くう「大国意識」を彼女に指摘されて、驚いたことがある。国が大きいと国内問題に、そのうちに自分のことばかりに関心が向いてしまう。一度ポール君が、ニュージーランドと比べて、同年輩のドイツの青少年が政治に無関心で新聞もあまり読まないと指摘した。これも「大国意識」と無関係でないかもしれない。国際社会の現状を考えると、21世紀はますます小国を軽視する時代になるような気がする。

彼の故郷のウェリントンの港から、春になると南極に向かって回遊する鯨が見えるという。

ドイツ滞在中、ポール君の一番印象に残る経験はクリスマスであった。ドイツではどこの家庭もそうであるが、我が家も例年、女房がモミの木を買いクリスマス・ツリーの飾り付けをする。ニュージーランドでは、クリスマス・ツリーはプラスティック製のことが多いそうだ。またクリスマスは夏で、雪がつもるホワイト・クリスマスは、彼には初めての体験であった。ドイツは何年も暖冬が続いたのに、今年は雪ばかりで寒い。私にはきびしいが、これはポール君のためによかったのである。

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