「欧州どまんなか」 April 30, 2002
欧州でよみがえる「帝国主義」

美濃口氏の写真 美濃口 坦
ミノクチ・タン

1970年から京都ドイツ文化センター勤務。1974年ミュンヘンに移住。1980年から1991年まで書籍販売業。人生の大部分を通訳、翻訳、教師等で日銭を稼いで生きてきた「フリーター」先駆者。この数年来、日独のメディアに寄稿。訳書「比較行動学」(アイブル=アイベスフェルト)

 

最近、私は南ア連邦の大学に就職したフランス人の甥・フィリップ君からEメールをもらった。手紙は「『暗黒大陸』と呼ばれるアフリカの南端での新しい事件は、、、」ではじまる。その事件とは、郊外の家に入居し修理に手間取ったがやっと住めるようになったことである、、、、、

でもヨーロッパ人は昔からなぜアフリカを「暗黒大陸」と呼ぶのであろうか。

「9月11日」の事件以来、欧州で私の気になるのは「植民地主義・帝国主義ルネサンス」と呼ぶべき論調である。英語圏の新聞で、保守的文化人は自国民にも他国民にも迷惑をかける「破綻国家」を批判し、西欧は今一度「白人の重荷」(キップリング)を背負い、これらの国を植民地化して文明的秩序を築くべきと主張する。一番新しい例はブレア英首相のロバート・クーパー外交顧問で、「リベラルな帝国主義」というタイトルで4月7日「オブザーバー」に掲載された。

この人物は、地球上に三つのタイプの国家があると考える。第一のタイプは国家主権にこだわらず人権を尊重するEU加盟国で、「ポスト近代国家」と彼は呼ぶ。欧州以外ではカナダがそれで、日本も潜在的にはこのタイプであるが、アジアで孤立しているためにその方向に発展できない。

第二のタイプは中国やインドといった近代国家で、まだ軍備を強化し国権拡張志向が強い。(彼は米国もこのタイプの国家と見なす)。第三のタイプはここまで行かない近代以前の「破綻国家」で、国内秩序も保持できず、麻薬・犯罪・テロリズムのシンジケートに基地を提供する問題児国家群である。

昔なら西欧はこれらの国を植民地化し「帝国」に組み込み、秩序を築き上げた。今では、介入が長引いたり失敗したりすると世論から批判されるので、そんな「帝国主義」は不可能である。そこで彼が提唱するのが「リベラルな帝国主義」で、それは経済協力であったり、また時には「犯罪シンジケート」と区別できなくなった国に対しての「人道的武力介入」、すなわち戦争であったりする。

以上が掲載エッセーのズサンな要約である。日本人なら「大英帝国の子孫、よくいうよ」と思うかもしれない。中東問題をはじめ、地球上の紛争の大部分はかっての植民地時代に、あるいは冷戦時の東西対立に由来するからである。また彼は米国の奇妙なふるまいに口を閉ざす。

この見解に対する欧州での反響は、「帝国主義」とか「植民地主義」といった悪いコトバはつかってはいけない、であった。というのは、多くの人が、英首相外交顧問が診断するように、これら「破綻国家」こそ、「秩序を失ったブラックホールで、そこからテロリストが世界中に殺人・ネットワークをはりめぐらしている」(フィッシャー独外相)と考えるからである。

私はドイツにいるので「戦争が絶対悪い」とは考えない。この数年来流行の「人道的武力介入」について、ある英国人歴史家が、今まで成功した稀なる軍事介入の例としてポルポト政権と東チモールに対するケースをあげた。武力介入をどう評価するかは本当に難しい問題と私には思われる。でもコソボを訪れて、西欧の人道的介入・「ユーゴ空爆」が民族問題解決に役立ったと証言する人に私は出会ったことがない。それでは、西欧主導の軍事介入はどうしてうまくいかないのだろうか。

90年代のユーゴ民族紛争はヨーロッパ人の眼には、まるで隣の家の横暴なオヤジが家族を虐待し、残虐の限りをつくしているようにうつり、見るに見かねて介入した側面があった。現実が彼らにそう見えた点が重要で、昔アフリカが「暗黒大陸」であったように、今回はアフガニスタンがフィッシャー外相には「ブラックホール」に見えたのである。

現実は、眺める人の属する文化やその歴史によって異なって見える。西欧的「国家」概念をはてめると多くの国が「破綻国家」に見えることもある。でも昔と異なり図書館にもインターネットにも情報は山ほどあり、なかには自分が抱く「現実」像に反する情報もあると思われる。また「ブラックホール」で事情がわからなければ介入しなければよいし、そこに「悪いテロリスト」が勢ぞろいしているのなら、世界中に分散するより監視しやすいので本当は感謝すべきであった。

西欧が軍事介入するたび、バルカンがそうであるように、「保護国」=「植民地」が出現する。米国は爆撃で破壊し、欧州のほうは昔植民地の片棒をかついだ宣教師のような言動をする。こんな介入は税金の無駄づかいで、偏見と精神的怠惰からくる「惰性的帝国主義」と呼ぶべきで、リベラルでもない、、、、、、

フィリップ君のメールはヨーロッパに散在する知人全員に宛てたもので、すぐ終わると思ったのに、ワード添付書類の手紙は延々と続く。全部で28頁、日常での苦労や楽しみや、人種隔離政策の傷跡を残す社会に山積みする問題が綴られ、「暗黒大陸」という私たちの偏見を茶化す内容でもあった。英語に弱い私は20頁でダウン、近々残りを読もうと私は思った。