「欧州どまんなか」 June 25, 2002
ヘンなワールドカップになった

美濃口氏の写真 美濃口 坦
ミノクチ・タン

1970年から京都ドイツ文化センター勤務。1974年ミュンヘンに移住。1980年から1991年まで書籍販売業。人生の大部分を通訳、翻訳、教師等で日銭を稼いで生きてきた「フリーター」先駆者。この数年来、日独のメディアに寄稿。訳書「比較行動学」(アイブル=アイベスフェルト)
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少し前倒産したミュンヘンのキルヒ・グループが今回のワールドカップのテレビ放送権を取得し値段をつりあげた。そのためドイツの公共放送はドイツの試合がない限り日本時間で夜の試合だけを実況中継した。午後の試合はドイツ時間で朝の8時半に始まるので視聴率がさがるからである。

有料テレビ加入者は全試合を見ることができるが、そうでない私が見た日本チームの試合は対ロシア戦だけである。私は日本がトルコに負けた試合は見ることができなかったが、テレビで見た人の話では日本チームが雨でやりにくそうにしていたそうである。

日本は負けて準々決勝に出られなかったけれど前評判は高かった。それまでの試合を見たサッカー通は日本チームの水準に驚き日本が勝てるとふんでいた。雨が降って小回りがきかなくなって、試合全体が大振りになる。どうしても長め、高めのパスになりがちである。これが日本に不利になったように思われる。だから、試合の翌日の新聞でトルコの選手は異口同音に雨が降ってよかったとよろこんでいた。

韓国・イタリア戦は、私はテレビでを見ることができた。日本も韓国のようにがんばって欲しかったと残念がる人がいるかもしれない。がんばるとは自己暗示で、どこか自分をドラマの一部にすることである。ドラマの材料がないと、これも掛け声だけの精神主義の儀式になるだけである。韓国の選手に材料をあたえてくれたのは審判であったのではないのだろうか。

欧州のクラブ選手が小突いたりけったりする反則をこれほどすることを、私は今まであまり意識しなかった。これは反則が日常茶飯事になっているからだと思う。アジア最初の世界選手権ということもあって今回審判がきびしかったといわれる。

対イタリア戦で、韓国は早い時期でリードされ、その後攻めあぐむ。ここまでは日本と同じである。欧州クラブの常習犯のイタリヤ選手は反則を繰り返し、審判に何度も注意される。反則している意識が乏しい彼らはイライラしてきて、防備も攻撃も雑になり、同点ゴール。これで韓国の選手が蘇える。後に起こったことは試合を見た人が知っている通りである。

イタリアが韓国ごときに負けた。これは欧州サッカー界にとって屈辱的事件である。(この事情はロシアが負けた日露戦争に似ているかもしれない)。決勝ゴールを決めた韓国選手はイタリアのクラブに所属する。クラブの会長がこの選手を解雇すると激怒したが、これもショック度をしめす。

なぜ欧州の選手はこれほど反則をするのだろうか。また欧州のサッカー界のお歴々は、「アジアで開催してヘンなワールドカップになった」と嘆いているそうである。これはフランス、ポルトガル、アルゼンチンといったサッカー強国があっさり負けたからである。

「バイエルン・ミュンヘン」は欧州有数のサッカークラブである。そこの会長ベッケンバウアー(元サッカー選手)は、欧州の有名クラブの花形選手が年間80試合の過密日程をこなし疲労困憊状態にあったことが今回の欧州勢不振の理由であると語った。でもこの発言には少し負け惜しみがあるかもしれない。というのは、欧州有名クラブの選手層は厚いし、そこには世界各国の選手がプレーしているからである。

試合数が増大したのは入場料だけでなくテレビ放映権でゲームを商品化できるからである。またメディアと結びつくことでクラブの名前のついたシャツを販売するなどして収入も増やせた。でもこのような商業化推進も、ワールドカップの放映権を取得したキルヒ・グループの倒産がしめすようにバブル化して限界に達しているとされる。

試合がテレビ放映の商品である以上、試合の流れを止める反則の取締りも控えめになる。メディア商品となると、試合の進め方もスター中心主義になる。だから一人か二人の中心選手が欠けたり、不調だったりしただけで早々帰国する国があらわれた。今回のワールドカップの異変は欧州のサッカー商業化が行くところまで行った姿の反映でもある。

その証拠に、決勝トーナメントの参加もあやぶまれたドイツが勝ち進む。これもゴールキーパー以外、スター選手がいないことが幸いしたからである。冴えないプレーを無感動に続ける自国チームを、いつもぎりぎりで合格して進級・卒業する生徒にたとえたスポーツ記者がいた。

今回、韓国や日本の選手の活躍を見て多くの人が「アジア的サッカー」と表現した。動きが早く小回りがきくのである。ポルトガルのフィーゴ選手は欧州の大スターである。この選手が韓国の選手にボールを奪われて、呆然としたり、転んでみせて格好をつけたりする場面が試合中何度も見られた。

私はテレビを見ながら、アジア人も自分の長所を生かし、欧州、南米、アフリカの選手に対抗できるサッカーを生み出すことができるような気がして本当にうれしかった。

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