「欧州どまんなか」 December  24, 2002
過去の亡霊を見る人々

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2002年前半メディアで「欧州の右傾化」が問題にされた。きっかけはフランスの大統領選挙の大統領選挙・第一回目の投票で社会党のジョスパン候補が極右の国民戦線のルペンに負けたり、またオランダでも「極右」と見なされるフォルタイン党の党首が暗殺され、彼の政党が選挙で大幅に伸びて連立政権に参加するようになったからである。

これらの事件がきっかけで、一頃EUで大多数を占めた社民党政権が少数派に転落し、オーストリア、イタリア、ノルウェー、デンマーク、ポルトガルでも極右政党がすでに保守党との連立政権を組んでいるか、準与党の役割を演じていることがあらためて注目された。

下半期スウェーデンとドイツの総選挙で社民党が勝ち、またオーストリアでは欧州極右の代表格ハイダーが選挙で大幅に票を減らしたこともあって「右傾化」の歯止めがかかったと安堵する声がある。でもノルウェーで移民排斥の極右・進歩党が世論調査で現在35%に達し、このままでいくと次の選挙で第一党になると心配されている。

このように選挙のたびにヨーロッパ人が一喜一憂するのは、二十世紀前半この大陸で猛威をふるったファシズムとナチズムの過去の亡霊を極右勢力に見るからである。また自分たちがこのイデオロギーと訣別し欧州統合を推進することによってよい社会を築きあげた思っているためのこの傾向がさらに強まる。

極右が忌まわしい記憶とむすびついている以上、欧州公認イデオロギーから少しでも右に逸脱する政党が出現すると、この過去の亡霊を蘇えらせることで封じ込めることができる。

欧州のどこの極右政党にも共通するのは、移民に対して制限的であることと、欧州統合、グローバリゼーションに懐疑的な点である。

前者は、難民や政治的亡命者を受け入れたり、すでに居住して外国人に家族の呼び寄せを許したりしているためにヨーロッパ以外の世界から来た外国人が増加する問題である。

ヨーロッパ人は自国がコロンブスの発見した新大陸でなく旧大陸・欧州にあって米国やカナダのような移民受入国でないと思い込んでいるところがある。このような国柄であるために、大都市でEUの域外出身の生徒が大多数を占める小学校が増加し、学力水準が低下したり、自分が住む町の教会の横に回教寺院が出現したりすると落ち着いていることができない。

次の厄介な問題は欧州統合とグローバリゼーションであるが、どちらも過去10年間テンポを早めて、大多数の人々にはメリットの感じられない外圧になってしまった。

外国人の増加もEU加盟国が強調する人権尊重・人道主義と無関係でない。またグローバリゼーションも冷戦時に強調された対米協調の延長である。これらも、また欧州統合もEU加盟国の公認イデオロギーである。

EUが東に拡大し、自国に外国人が増え、鎖国したい気分に陥っている人は多いので、私にはもっと極右に流れる票が増えても不思議でない気がする。ところが、そうならないのは、ナチズム・ファシズムの過去の亡霊を蘇えらせる極右封じ込め戦略が機能しているためである。今年の「右傾化」現象を見ていて、将来この戦略が機能しない国が増えるような気がした。

外国人問題も欧州統合批判も極右的テーマになってしまったために世論では問題しにくい雰囲気がある。これは極右封じ込め戦略を採用して過去の亡霊を蘇らせて警告しているうちに自縄自縛に陥ったことになる。グローバリゼーション反対はまだ極右独占テーマではないが、かなり前フランスの新聞を読んでいると誰かがグローバリゼーションを批判して反ユダヤ主義者扱いを受けたと怒っている人がいたが、これもこの奇妙なメカニズムを物語り、私は少し笑ってしまった。

この事情は日本人にお馴染みの「建前と本音」の関係に似ているかもしれない。とするとヨーロッパの極右は本音をいう人々ということになる。彼らはポピュリズム(大衆迎合主義)のために批判されるが、建前に縛られている人々のやっかみが入っているので、その点を割引きして考えられるべきである。

建前と本音のギャップがこれほど大きくなったのは冷戦終了後からである。以前はもっとおおらかに発言できたような気がする。現在では外国人批判をすると人種差別主義者と見なされかねないし、それをおそれる人が少なくない。

私は自分が外国人であるためか、建前だけで進行する状況に不安を感じる。発言を抑えられていると人々の心のなかでかえって憎悪が大きくなり、それこそ極右に過去の亡霊を見る人々がおそれている状況が来るような気がするからである。私はこう思うので極右政党が議会で発言するほうが好ましい。

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