「欧州どまんなか」 February  18, 2003
カレー・ソーセージと反米主義
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路上のテーブルで一人寂しくソーセージを立ち食いするシュレーダー独首相が「うまいいカレー・ソーセージもリビアに行ったら食べられない」と独り言をいう。その下に「首相折れて、リビア亡命」とある。これは、少し前にドイツの新聞で見かけた漫画である。

「リビア亡命」とあるが、シュレーダー首相はまだ辞任していないので、もちろんジョークである。こんな冗談がでたのは、ラムズフェルド米国防長官が、米議会で対イラク戦争に協力しない国として「リビア、キューバ、ドイツ」と並べたからである。ドイツ国民は、今まで経済的にも軍事的にも国際貢献を果たしてきたつもりなので気を悪くしている。

カレー・ソーセージであるが、これは赤いソーセージで、その上にトマトケチャップとカレー粉がかかっているだけである。でもフライド・ポテトといっしょに食べるとおいしい。

シュレーダー首相がここでカレー・ソーセージを食べているのは、彼の三度目の離婚と四度目の結婚と関係がある。ドイツのマスコミは原則として政治家の私生活をあまり書かないが、回数が多いこともあって当時話題になった。別れた三度目の結婚相手がマスコミのインタビューで非難し、それに応えて、彼も「たまには、カレー・ソーセージを食べたかった」と一言グチった。彼女はベジタリアンだったからである。

ドイツでは、カレー・ソーセージはキオスクの横で立ち食いする庶民的な食べ物である。当時シュレーダー首相は首相になる前で、この発言は人々に親近感を抱かせ、その後コール首相との一騎打ちの選挙戦に勝つことができた、、、、、

少し前に会った日本人の友達は、シュレーダー首相が対イラク戦争反対の立場に頑強に固執することを不思議がる。選挙戦で勝つために言い出したのは理屈にあうが、選挙も終わったことであり、これ以上対米関係を悪化させないほうがいい。ところが、彼は、外交的に不適切と国内で批判されているのに、断固と「ノー」をいいつづける。

現在、ヨーロッパ諸国の世論調査では、政府が対米協調路線であろうが、なかろうが、どこの国でも80%の大多数の人々が米国のイラク攻撃に反対する。参戦するブレアー首相の英国でも反対が強い。

とすると、平和主義は反米主義になるが、なぜこれほど多数のヨーロッパ人が戦争に反対するのであろうか。ユーゴ空爆や少し前のアフガン戦争の頃と比べると、この状況には今昔の感をおぼえる。確実にいえると思われるのは、大多数のヨーロッパ人が、対イラク戦争に関して恐怖心や不安を覚えていることである。ということは、彼らの多くは、以前は身の危険を感じなかったので戦争に賛成していたことになる。

対イラク戦争がこのように大多数の人を不安に陥れるのは、彼らがブッシュ大統領を薄気味悪く思っているからである。これには、「9月11日」事件の直後からその萌芽があった。当時ブッシュ大統領も、またイスラム原理主義者のビンラディンも揃って狂信者とする見解が表明された。このイメージが多数の人々の頭に根をおろし、戦争反対の大きな流れになったのではないのか。その証拠に、ドイツの世論調査で「フセインとブッシュのどちらが世界平和を脅かしているか」の質問に38%がブッシュと答えて、フセインの37%より多い。他の欧州諸国も似たような状況である。

米国の一極主義に文句をいう欧州の政治家はいても、これは「米大統領はヘンだ」といえないからである。米国が世界中に無数の軍事基地をもっていることなど、ヨーロッパ人から見たら「辺鄙な場所にごくろうさん」としかいいようのない話である。米国が超大国であることは今にはじまったことでない。米欧の価値観が共通であれば、彼らは米国といっしょに世界を動かしていると思うことができるし、今までそうだった。

ブッシュ大統領に対する拒絶反応は、彼の発言があまりに宗教的過ぎて、欧州の人々にとって、イメージの上で米国南部のキリスト教原理主義の伝道師と重なるためである。今回、新旧の両教会が戦争反対に特別に熱心なのもこのためではないのだろうか。教会関係者の発言を聞いていると、「新大陸へ渡った人々がキリストの名をかたる邪教のために戦争をしようとしている」と怒っているように、私の耳には聞こえる、、、、、、、、

ドイツの教育は小さい頃に、大学進学コースと社会の下働きの養成コースに枝分かれする。戦争で父親を失い、掃除婦の母親に育てられたシュレーダー首相は後者の道を歩むが、途中で一念発起して大学へ進学し、弁護士になった。彼は社会の底辺からはいあがった人で、野心家である。

昔から社民党の中で、シュレーダー首相がビジョンに乏しい政治家と見られたのも、この履歴と無関係ではない。彼にとって、ビジョンより「カレー・ソーセージ」のイメージのほうが重要で、「社民主義は自分の母親だ」といった。だからこそ、彼は人々の不安を察知して「この戦争は冒険だ」と断言し、確信している。私にはそうに思われて仕方がない。

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