「欧州どまんなか」 March  04, 2003
オイル・ダラーがなくなる日

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「もっと上がるはずだ」とトーマス君はご機嫌斜めである。彼は芸術愛好者で画廊を経営しているが、昔から資産運用に熱心だ。彼は、戦争で金・価格が上昇すると見て、株から資産の一部をそちらにシフトした。

昔からヨーロッパでは世の中が不安になると金の値段が上昇し、それが投機の対象になる。今度も、確かに金・価格は上昇し、トーマス君はもうけた。でももうけかたが少ないことに、彼は不満で、これを米国に責任転嫁する。現在、ドイツ人は少し反米・嫌米になりつつある。またか、と思って私が笑うと、彼は生真面目に説明しはじめる。

トーマス君によると、米国の金融関係者は金を目の敵にしている。その証拠に、彼らは金の価格が上昇しないように不法な市場操作をしたことで訴えられて、裁判になっているという。奇妙なことに、私は「ゴールド・フィンガー」というジェームズ・ボンド映画を思い出す。あの映画で、金価格が下がるようにしたのは、どちらだったのだろうか。

ぼんやりしている私に拍子抜けしたトーマス君は、「要するに、グリーンスパンとそのお仲間たちは資金がドルから金塊に逃げることを怖れている。だから金に魅力がなくなるように価格上昇をおさえる」と少し声を大きくした。壁にかかったご自慢のアンディ・ウォーホルの絵を見ているうちに、私は、金・価格を下げようとがんばったのがジェームズ・ボンドだったことを思い出した、、、、、、

赤黒いスペイン・ワインをごちそうされて、私はほろ酔い気分で帰宅。そのうちに、ビンラディンが問題にされていた頃の新聞記事を思い出す。それは、アルカイダがテロ資金として金塊を隠しているという内容であった。当時私はアフガニスタンの洞窟に金塊を隠している情景を思い浮かべてアラビアンナイトを読んでいるような気がした。

イスラムには普通の銀行を経由しない伝統的な送金方法がある。私には、当時山奥で重たい金塊を運ぶなんてありえないと思われた。でもあのとき、私は記事を誤解していたことになる。「金を眼の敵」にする人々は、テロを持ち出して、アフガニスタンでなく自国内の金取引にケチをつけて、ブレーキをかけようとした。テロを利用して前からしたかったことを、ここで実現する。今や、これも米国の十八番になった。

そのうちに、私は以前から気にとめながら、あまり考えなかったことが頭に浮かんでくる。それは欧州統一通貨のユーロに関することである。原油取引は昔からドル建てである。そのために、七〇年代、原油価格の高騰で産油国に石油代金がドルで集まり、それが先進国に逆流してきた。その時以来、このマネーはオイル・ダラーと呼ばれる。

米国の指導者はユーロが欧州の地域通貨にとどまり、ドルと同格の機軸通貨になること望まないといわれる。産油国が原油価格をユーロ建てに切り換えるのを特に嫌がっている。オイル・ダラーがなくなることは彼らの悪夢である。産油国ベネズエラでチャベス政権登場して原油を減産するだけでなくユーロ建てに切り換えようとした。これに対して、米国はクーデターまがいのことを裏で画策した。

イラクのフセインは原油価格をドル建てからユーロ建てに切り換えた。これは、自国を敵対視する国の通貨を嫌うためで、当然である。産油国イランも「悪の枢軸」にリストアップされたが、以前からユーロ切り換えを検討しているといわれる。

米国は何が何でもイラクを攻撃しなければいけない理由は、イラクを叩いて示しをつけ、軍隊を駐留させて中東産油国がドル建てにとどまるように牽制するためである。石油代金をドルで請求しない国は、今後米国に「民主化必要」と見なされる。

原油のために戦争をはじめる米国を非難する人々に、経済の専門家は「米国は中東の原油に依存していない。中東の原油主要輸入国は日本や中国である」とたしなめる。この人が考えない意味で、この事実は重要である。というのは、原油がユーロ建てになって、東アジアの国々がドルから離れていくと、ドルが米国にだんだん還流しなくなる。このような状態は都合が悪い。だから米国は、アジア通貨危機のときも「アジア通貨基金」構想をつぶしたのではなかったのか。

米国の貿易赤字も、経常赤字も、財政赤字もひどい。またマネーゲーム・バブルでドルの垂れ流しになり、その流通量は気が遠くなるほど膨張した。米国が並みの国なら、IMFに経済安定化・プラン作成を要求されて、監視を受けているはずである。そうならないのは、自国通貨・ドルが世界中でつかわれているからで、米国は国内のインフレをおそれることなく、涼しい顔でいられる。米国にとって、イラクの油田確保などは、自国に都合の良い現在の国際通貨体制維持と比べて、ずっと小さな問題である。

ドイツで日本経済となると、戦争による原油価格高騰の影響がよく心配される。通貨問題としては、円が今後ドルとの一蓮托生を強めるか、とうかの問題と思われる。

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