「欧州どまんなか」 May  20, 2003
パトカーで登校する子供たち

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担任の先生からで電話がかかってきた。母は私が学校に行かないことでしきりに謝っている。今日はむやみに長い。電話が終わると母が私の部屋に来て、泣きながら私に学校へ行くように頼んだ。私は怒鳴り襖を閉める。でも母のために、私はまたしばらくのあいだ学校に顔を出そうと思った、、、、

なぜ私がこんな自分の高校時代のことを思い出したかというと、少し前テレビを見ていて驚いたからである。学校をサボり繁華街でコンピューターゲームをする生徒を、警官が尋問し、携帯で学校に連絡した。その後今度はこの生徒をパトカーで学校に連れて行くではないか。

次の場面は、警官が戸口でベルを押す。サボりの常習犯の男子生徒がドアを開ける。彼も学校まで警官に連行された。ドイツには、今このようにパトカーで登校する子供がいる。

従来は、子供が学校をサボると学校と両親とカウンセラーが協力して対策にあたるだけであった。ところが近年、学校をサボる生徒が激増する。十人に一人が病気でもないのに頻繁に欠席するいるといわれる。警官まで駆り出すこの方式が開発されたのも、不登校児激増にブレーキをかけるためで、南ドイツで数年前にはじまり、現在幾つかの大都市で実施されている。

犯罪者をつかまえるはずの警官が、こんな子供ために運転手をやらされていやでないのだろうか。青少年犯罪の第一歩は学校をサボることであるので、彼らは犯罪予防にはげんでいると胸をはる。去年、少年がエルフルトで十六人も銃殺した。彼が学校を恨むようになったのも、サボリの常習犯で病欠証明の偽造のために放校されたからである。

自分の教え子を潜在的犯罪者と見なす警察、それと協力するなんてドイツの学校の先生はおかしい。彼らは自分が教育者として失格したとは思わないのだろうか。本当は学校を魅力的なものにしなければいけない。だから本末転倒。そう思う人がいるかもしれない。

ところが、こんな感想を、ドイツの学校の先生はオマジナイと感じるようだ。知人の数学の先生は自分がいくら授業を面白くしても限界があり、ソニーのプレーステーションに勝てないとはき捨てるようにいった。彼女は、時代が変わって学校も重要でなくなり、子供たちの頭の中で学校とゲームセンターが並ぶようになったと、事情を説明する。昔もそのような生徒はいたが、今ほど多くなかったと彼女は訴える。

学校に行かない子供には色々なケースがある。「パトカーで登校」というショック療法が効果を発揮しないケースもあるが、種々の症状選別し適切な対策をたてるのにかえって役立つといわれる。このような事情から、特に現場の教師、また彼らの団体はこの方式を肯定的に評価しているようである。

ドイツでは校内暴力が激しい学校には警官にパトロールを依頼するところもある。学校と警察の密接な協力に対してドイツの人々はあまり抵抗を感じない。それはなぜなのだろうか。

知識を特権階級だけでなく国民全体に普及させようとした義務教育は近代国家の要請である以上に、啓蒙思想が残したものである。子供の通学に関して親権者の監督義務が重視されるのもこのためで、この事情は、(分権制のドイツでは州ごとに異なるが)学校法に反映する。ある州は教育義務を怠る両親に邦貨で上限三十万円の罰金を科している。

家族でバカンスに行く。夏休み開始の数日前までは飛行機代が安い。そこで数日間子供を欠席させる。このようなことをして、一日につき2万円ほど罰金を支払うことになった話を私は耳にしたことがある。不法行為である以上、学校にも告知義務がある。黙認したことが判明すると、これもこれで厄介なことになる。法律とは紙の上に書いたオマジナイでない。

高校生の私はなぜ学校が嫌いだったのか。時々しか顔を見せない私をクラスメートはいつも歓迎してくれたので、イジメなどなかった。当時の私は「独学」主義者であった。教科書は私には読んで分からない難解な書物でなかった。学校で先生はそこに書いてあることを話すだけだった。なぜ彼らは「関が原の戦いが西暦1600年にあった」と自分の口から直接言いたいのであろうか。私はよくそう思った。また大学に入ってからも私がほとんど授業に出なかったのも、このためである。

でもあの時、京都でパトカーが私の家の前にとまり、私を学校に連行したら、私はどうしただろうか。もちろん母は悲嘆にくれて卒倒したかもしれない。

私は、苦労知らずで育ったためか、自分が、若い頃何もかもがハッキリせず歯ごたえがないことに苛立っていたのを思いだす。パトカーのなかで、よく理解できなくても、私は、国家が守る価値(この場合、啓蒙主義が残した義務教育)をもち、そのために警察まで動員したことに、かえって何か手応えのようなものを感じたかもしれない。とはいっても、今私がこう考えるのは妄想の域を出ないことであるが、、、、、

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