「欧州どまんなか」 June  10, 2003
本当の理由

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結婚してしばらくした頃、ある日男は「色々なことを言ったかもしれないが、本当はおまえの財産がめあてだったんだよ」と告白する。前から疑っていた女は、夫の正直さに素直によろこべないで、居直り男が今からはじめることを考えて不安と猜疑心にかられる。でも女は聞かなかったような顔をしてただ寡黙になるばかりであった、、、、、

数日間、ロシアのサンクトペテルブルクからエビアン・サミットへという世界の主要国の首脳が握手する外交舞台が続いた。この時の雰囲気も、こんな三流ホームドラマとあまりちがわなかったのではないのだろうか。というのは、その直前、ポール・ウォルフォウィッツ米国防副長官が、オシャレ雑誌「ヴァニティ・フェア」とのインタビューがのなかで、イラク戦争の本当の理由について、
「、、、真実は、米政府が官僚的であること大いに関係があり、私たちは、大量破壊兵器という誰もが納得できるテーマを最重要な(戦争)理由とすることに決めた、、、、」
と発言したからである。

これは、「イラクの大量破壊兵器が脅威だったなんて、、、こんなことをいったのは皆にわかりやすくするためで、、、」と理解される発言で、あるはずの大量破壊兵器が出てこなくてヘンだと思っているところに、こんな正直な「告白」は大きな波紋を投げかけないわけにいかない。(米国が戦争理由を国民投票で決める日がいつか来るかもしれない)。

戦争前、「イラクは45分以内に生物・化学兵器を使用できる」とその脅威を強調したブレア首相は、国内のメディアや政治家から非難されて、旅先のロシアで弁解しなければいけなかった。また米国との亀裂を修復しようと思っていた「戦争反対国」首脳も複雑な気持だったと伝えられる。

このような気分の欧州の政治家に、小泉首相の「拉致問題」レクチャーは気がまぎれて歓迎されたと想像される。ちなみに私は、日本が途方に暮れている拉致問題がエビアン・サミットで問題ととして取り上げられたことを、日本の新聞を読んではじめて知った。

戦争の「本当の理由」問題は尾を引きくかもしれない。というのは、英国では議会にイラクの大量破壊兵器の脅威についての判断の妥当性を調査する委員会がすでに設置されたし、米国でも類似した委員会が設置される可能性があるからである。こうなると、戦争賛成・反対の外交問題でなく、情報操作して自国民を欺いたかどうかという厄介な国内問題になる。

6月4日のニューヨーク・タイムズに「米国は戦争が終わってから戦争理由をさがすという前代未聞なことをする」とあった。本当に奇妙なことで、もしかしたら、9.11以来米国がしている戦争について、その理由や目的を生真面目に論じることじたいが見当違いなのかもしれない。

「戦争論」のクラウゼヴィッツの有名でないほうの戦争定義に「戦争は、暴力を行使して、相手を屈服させて抵抗力を奪い、自分の意志通りに従がわせること」というのがある。私たちは漠然とこう思って米国の意志を推測し、米国ももっともらしいことをいってきた。

アフガン戦争でもパイプライン敷設の経済的野心が取り沙汰された。現状はこの目標にほど遠く、国際治安支援部隊がカブールをパトロールしてときどき殺されるだけである。

イラク戦争でも、米国はイラク民主化の意図を表明し、世界中は米に油田確保の戦争動機を推定した。「抵抗力を奪い、自分の意志通りに従がわせて」、本気にこれらの目標を達成するために、何十万もの米兵士の長期駐留が必要になる。でもこんな気長なことをする気は米国にないようにみえる。

このように目的や理由がまじめに受け取れない「戦争」をしている米国は、何をしていることになるのだろうか。今まで数多くの人に感じられ、また指摘されたように、自国兵士が出演する「戦争ショー」を主催しているのである。(私の知人に、米国の政治家が「映画製作者がロケ先をさがすように次の戦争相手を語る」と怒っている人がいる)。

出演者が多数死んだら、ショーも現実になるので、クラスター爆弾の使用もいとわない。メディアが報道しなくなったら、これが「戦争ショー」の終わりで、地面に落ちた爆弾が地雷のようになる現実など気にならない。

この奇妙なイベントから発信されるメッセージは、二十世紀に世界を仕切ってきた米国が、今後もそれを続けたいという願望である。だからこそ、第二次大戦の勝利と、ドイツと日本を民主化したという自慢話がよく出てくる。

私には、時代が変わったのに引退しそこなった西部の保安官が誰かに喧嘩を吹っかけては、ピストルをぶっ放す場面が連想されて仕方がないのであるが、、、、

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