「欧州どまんなか」 September  16, 2003
陰謀論と「裸の王様」

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もう一月ぐらい前のことだと思われるが、ドイツを代表する週刊新聞「ツァイト」に世論調査の結果が発表された。それによるとドイツ国民の19%、五人に一人が「9.11テロは米政府がやらせた」と思っているそうである。また30歳以下ではこの割り合いが31%に増え、ほぼ三人に一人になる。

次に「テレビや新聞が9.11について本当に真実を報道したと思うか」という質問に対しては、そう思わない人がドイツ国民全体では68%、30歳以下になると78%も占める。

ということは、ドイツ国民の大部分は、ビン・ラディンの陰謀でハンブルク工科大学元学生のエジプト人・モハメッド・アタのグループが9.11のテロ行為に及んだという通説をそのまま受け取らず、この事件には何か裏があると思っていることになる。

いつもそうではないが、この場合は通説を信じないことが「陰謀論者」の烙印を押されることになるようだ。(これもよく考えれば奇妙なことで、どのような条件を満たしたらある事件がこのような特別扱いを受けるのだろうか)。次に「陰謀論」となると、自分には良識が備わっていると思うメディア関係者は、フリーメーソンから「シオンの議定書」まで連想し、ヒットラーの影におびえてしまうところがある。

そのために、彼らにとっては、国民の大部分が9.11の通説を信じなくなり、陰謀論者の本がベストセラーになることは我慢できないことだ。この「ツァイト」の世論調査があってから、主要新聞やテレビでこの現象を嘆いたり、この種の本の著者を槍玉にあげて批判したり、またこの「陰謀論」を世界中に広めるインターネットを批判する記事や番組がめだつ。これは既成メディアによる「陰謀論バッシング」である。

でも、この批判・攻撃はどこか本末転倒で無理なところがある。ここまで通説が多くの人々から信頼されなくなったのは、被害国・米国が早い時期に捜査を打ち切って事件解明に努力しないで情報の開示を怠ったからである。このテロ事件の衝撃があまりに大きく被害国に対する配慮・同情から、当時たいていの人が米国のこの態度にあまり気にしなかった。

私は今回はじめて知ったのであるが、米国には33年前の自国宇宙飛行士の月面着陸を事実として認めない人がいるという。またダイアナ妃の死が単なる交通事故でなくアラブ人富豪との関係を苦々しく思う英王室と諜報機関の陰謀であると信じている人々が少なくないという。

でも、9.11事件をこのような事件と同列に置くのは適切であるだろうか。米国の説明を胡散臭いと思う人がこれだけ増大したのに、パラノイア(偏執病)を患っていると思うのも傲慢ではないか。だいいち、あの事件がきっかけですに二度も戦争があった。米国がイラクで泥沼状態に陥ったことは明白で、国際社会は一連托生のところがあるので、「ざま見ろ」で済ますことができない日がいつか来る。

当時は気にならなかったことも後から事件の推移を見るうちにヘンに思われることはよくある。9.11の公式見解を胡散臭く思う人が増大したのはイラク戦争のためである。人々に、米現政権担当者が細かい事実をあまり気にしない人々であることが明瞭になったからだ。

英国の「ガーディアン」の9月6日オンライン版に1997年から2003年6月まで環境相をつとめたマイケル・ミーチャーが寄稿している。この英政治家は2000年9月のネオコン・シンクタンク「新アメリカ世紀プロジェクト」のドキュメントに描かれた「米一極支配」の青写真にさかのぼり、9.11やその後の米国の対応に触れている。

この人の眼にも、事件前の米警備体制が犯行容疑者を泳がせ、また事件が起こってから米国がそれを阻止しようとしなかった行動も、事件後アフガニスタンにいるビン・ラディンを本気で引き渡してもらおうとしなかったことなども、不自然なことに映る。彼の結論は「対テロ戦争とは、、、世界ヘゲモニー確立の道ならしをするために宣伝されたもっともらしい神話」ということになる。

飛行訓練学校に通っただけのアラブの若者たちがあのような操縦のできたことを疑う人も、また旅客機の突入で破壊された国防省建物の写真を見て得心のいかない人もいる。本当のところよくわからない以上、当時世界貿易センターに突入した飛行機が遠隔操作されていたと主張する人がでてきてもしかたがないように思われる。王様が裸なら「裸だ」と叫ぶ子供たちのほうが私は昔から親近感を覚える。

「陰謀論者」と呼ばれる人々の書いたものを読むと、既成メディアが報道して、そのままほったらかしにしたことに固執し、そのような小さなニュースをジグソーパズルのように張り合わせた論法が多い。目の前の話題ばかりを追いかけて忘れっぽい傾向がある既成メディアの眼には、このジグソーパズルがパラノイアに見えるだけではないのか。こう考えると、今回の「ツァイト」の世論調査は、大多数の人が忘れっぽいよりパラノイアのほうがマシと思ったことなる。

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