「欧州どまんなか」 December 26, 2001                                 目次に戻る
「日本株式会社」と「テロ組織アルカイダ」

 

ウサマ・ビンラディンは今や世界で一番の有名人物になってしまった。またこの有名人が率いる「テロ組織アルカイダ」という名前も9月11日以来本当に耳にタコができるほど私たちは聞いている。でもこのコトバに私は違和感をおぼえる。

それは、私が「日本株式会社」という表現を思い出すからである。このコトバは昔日本企業の輸出攻勢が話題になった頃盛んにつかわれた。当時欧米人はMITと呼ばれた通産省が司令塔、すなわち日本経済全体を動かしていると見なした。日本に多数ある企業は通産省の子会社ようなものになる。でも日本人から見ると、この「日本株式会社」は、日本経済全体が、「一つの会社のように機能する」という意味で比喩的表現であるが、現実と無関係に一人歩きし、強いイメージを発揮した。

この表現に、当時私はアジア社会に対する欧米人の偏見を感じた。彼らは、西欧社会を自由で個人主義・民主主義社会と見なし、アジアというとその裏返しで、専制国家・集団主義の社会と考える癖が昔からある。日本経済に脅威を感じた欧米人が、通産省の号令で、すべての日本人が集団主義で、「アリのように」勤勉に働き、官僚と企業も、また企業同志もすべて癒着していると想像しているように私に思われた。

「9月11日」の事件後、しばらくの間は、ドイツのテロ専門家は、ビンラディンはアラブ過激主義者の世界の有名人、「象徴的人物」であるが、テロ事件容疑者モハメド・アタ以下のハンブルク工科大学元学生につながらないと発言していた。アラブテロは分散型で、各地に過激グループが独立して存在し、相互にゆるやかな横の関係をもつ。そのような複数グループがテロを計画・実施し、またアラブの世界には、テロのスポンサーになる人など無数にいるといわれた。

ところが、ビンラディンと「テロ組織アルカイダ」がテロ襲撃を陰で操っていたとされ、米国から証拠が出された。この頃、私は、通産省が日本経済全体を操る「日本株式会社」論を思い出す。証拠も、誰かがビン・ラディンに近い関係にあるとか、誰かと誰かが会ったとことがあるとかいう程度のもので、結局、アラブ過激派の「相互癒着」を前提にしているように思えた。でも本当のところ、新聞を読んだりテレビを見たりしているだけの私には何の判断もしようがなかった。

ところが、アフガニスタンで対ソ聖戦に医者として従軍し、現在英国で暮らすサウジ出身・サード・アルファギ氏は、インタビューのなかで「FBIがビンラディンのテロ組織アルカイダなどというのを聞くと私は笑うしかない」と語っている。80年代の中頃、ビンラディンはパキスタンのペシャワールでアラブ諸国からアフガン聖戦に参加する義勇兵の中継事務所を運営していた。はじめは参加者の氏名を登録しなかったが、心配する家族から問い合わせが多いので、途中から身元を登録するようになった。当時、この登録簿が「アルカイダ」と呼ばれていたという。「アルカイダ」が欧米で今回有名になるまで、ビンラディン自身が自分のグループをこの名前で呼んだことはなかったとアルファギ氏は強調する。

80年代「日本株式会社」というコトバが実体と無関係に一人歩きしたとき、私は欧米社会が勝手にイメージを作っていると思った。この人も「アルカイダ」というコトバに関して似た気持を抱いているように思われる。

80年代当時、通産省のお役人が外国人記者団を前に「私が日本株式会社の専務で、、、」といったら冗談として皆が爆笑したと思う。それは当時多くの欧米人が日本を知っていたからである。アラブ過激主義者のあいだで象徴的指導者の役割を演じる人が、「ビンラディンのテロ組織アルカイダ」というイメージに乗っかるかたちで、テレビで米国に宣戦布告をしたらどうなるであろうか。アラブ過激派についてあまり知らない以上、誰もが真に受けるしかないのである。最近米国から自白の証拠として公表されたビデオも、全部見たドイツの情報関係者が、ビンラディンが、事件に関して新聞にのっていることしかいわなかったことに驚いている。だとすると、彼は自ら課し、また他人から期待される象徴的役割を演じて、話しただけともいえる。

今まで殺されたり捕虜になったりした「アルカイダ・テロリスト」もアラブの義勇兵・傭兵で、モハメド・アタ以下の主犯容疑者と共通しない。爆撃されたテロリスト養成キャンプも、義勇兵に武器使用を教える訓練所に過ぎなかったのではないのか。彼らが本当にアフガニスタンでテロリストに養成されたとしたのなら、米国のフロリダでパイロット学校に通う必要などなかったことになる。というのは、タリバンも飛行機をもち、それで訓練を受けてもよかったからである。

ビンラディンという人はテロリストが好きで、スポンサーぐらにになったかもしれない。でも自分からテロを計画したり指揮したりする人ではなく、「9月11日」の事件はアフガニスタンにつながらない気がする。結局、欧米社会でメージがうまれ、それが信じられ、強引に戦争がはじめられただけではないのか。提出された「圧倒的証拠」を前に、私は自信がないが、心の片隅にある疑問を敢えてしるした。